2003年11月10日 (月)

CLAPV来日レポート(2003年9・10月)

CLAPVの王センター長らは今年の9月と10月の2回にわたって来日し、最近の訴訟支援活動の紹介を行った。ひとつは、9月13〜15日に滋賀県立大学と滋賀大学で行われた第22回日本環境会議・滋賀大会、もうひとつは10月4日に龍谷大学で行われたミレニアムプロジェクト国際シンポジウム「21世紀の地球環境とサステイナブル・ディベロップメント」である。

CLAPVと日本の研究グループ・NGOとの本格的な交流は、2000年3月末に日本環境会議の招待で第19回日本環境会議東京・川崎大会及びその直前に行われた公害弁護士連合会大会にオブザーバーで参加したことに始まる。

その後、2000年9月から2001年3月まで環境紛争と環境政策に関してアジア経済研究所と共同研究を行い、2001年2月末から同研究所の招待で1週間ほど王センター長、許副センター長が来日し、ワークショップでの報告や新潟水俣病事件関係者との交流などを行った。また、2001年9月には北京にて日本環境会議などの協力を得て環境紛争処理日中国際ワークショップを実施している。もともと、9月の来日は、熊本で開催予定であった第2回環境紛争処理国際ワークショップにあわせて計画していたものであるが、例のSARS騒ぎのためにワークショップは延期になり、滋賀大会のみの参加となった。

滋賀大会では9月15日にあおぞら財団の協力により開かれた第3分科会「公害被害の実態と救済−日中韓における事例交流を中心に−」において、王センター長の報告「中国における最新の環境事件からみた環境訴訟の発展動向と問題点」が行われ、また質疑応答のなかで許副センター長から若干のコメントがあった。また龍谷大学のシンポジウムでは第3パネル「アジアにおける環境の世紀の創造:中国の環境と西部開発」において王センター長の報告「中国環境訴訟の新展開−最新の環境事件からみた中国の環境訴訟」と若干の質疑応答が行われた。

王センター長のこの2つの報告ではいずれも、CLAPVが支援した注目すべき3つの訴訟事件が紹介されるとともに、中国における環境訴訟の到達点が示された。以下では報告資料*から簡単にその内容を見ておきたい。まず、最初の事例が、江蘇省石梁河ダムにて上流の山東省からの工場排水により養殖魚が全滅したとして、被害を受けた養殖従業者97戸が製紙工場と化学工場に対して損害賠償を求めた事件である。江蘇省にて一審、二審ともに被告に損害賠償の支払いを命じる判決が出たものの、被告は企業財産を別企業に移転してしまい、また法院側も執行に消極的なため、未だ被害者らは一銭の賠償金も得ていない。

2番目の事例が、河南省開封市に住む中学校教師の家族が同校が経営していた電気メッキ工場などからの大気汚染により中毒障害を受けたとして、同校に損害賠償を求めた事件である。工場の操業期間は1974〜1980年までであるが、被害者が市・省政府や中央指導者に問題解決を求めてきたものの果たせなかったため1999年に提訴に踏みきった。一審では証拠不十分として原告の訴えは棄却されたものの、二審では一審判決を撤回し、大気汚染と中毒性精神障害との因果関係の可能性を排除できないとして被告に損害賠償を命じた。これは中国で初めての環境汚染による精神障害に対する賠償が認められた画期的な判決であるという。現在、被告は判決を不服として河南省高級人民法院に上訴を、原告もまた賠償額が不足しているとして再審理を求めている。

3番目の事例が、北京市の182戸の住民が北京市規劃委員会(市の都市計画部門に相当)による動物実験室建設許可の取り消しを求めた行政訴訟である。この建設許可は中国衛生部傘下の2つの研究所が以前建設した動物実験室の拡張計画に対して出されたものである。かねてから周辺住民らとは実験室から来る異臭や動物の遺体が住居の窓の下に無造作に放置されていることなどをめぐり紛争が絶えなかった。住民らはこの実験室の拡張計画を施工が始まって初めて知るところとなり、施工を阻止しようとして施工業者と衝突が起こった。その後、住民らは市の関係部門に陳情を繰り返すが聞き入れられず、またCLAPVの支援のもとに、行政許可の撤回を求める行政不服審査を請求したが認められなかった。そこで182戸の住民らは、市規劃委員会を相手に行政訴訟を起こした結果、一審において勝訴した。これは北京市において都市計画部門が住民による行政訴訟で初めて敗訴した判決であるという。現在、被告が北京市中級人民法院に上訴している。

以上3つの事例をふまえて、王センター長は、国民の環境意識・権利意識の覚醒、環境事件に対する法院の認知の高まり、法院による集団訴訟や挙証責任転換の受容など、中国の環境訴訟に前進が見られることを強調した。龍谷大学のシンポジウムのレセプションで、環境訴訟の前進を強調するような報告を行った真意を王センター長に聞いたところ、王センター長は「前進があって当然。また『行政許可法』も制定されたことで、これからどんな行政訴訟でも起こせる。」と今後の取り組みに自信を示していた。

一方で、中国の環境訴訟及びCLAPVの支援活動に多くの困難があることは、王センター長も認めているところである。これについては、滋賀大会での参加者からの質問を受けて、許副センター長からもコメントがあった。許副センター長は、CLAPVがここ3年間にわたって中国のなかでも比較的貧しい西部地域で展開している環境訴訟支援の厳しい実態に触れて、地方指導層の環境保護軽視、環境汚染被害の証拠取得の困難さ、末端行政での環境法執行の不備、裁判官や弁護士の環境訴訟への不理解、法院の独立性の不徹底、などの問題点を指摘した。

また、王センター長の報告のなかで、CLAPVの活動が環境法を専門とする学者や学生のボランティアだけではなく、自然科学や医学の専門家とも協力して行われていることを強調していたのは印象的であった。CLAPVは環境法のプロフェッショナルなボランティア集団として設立されたものの、自然科学者や医学者との連携は希薄であった。それが日本環境会議との交流や新潟水俣病の現場でのスタディツアーなどの経験を通して、王センター長らがその重要性を認識して意識的に取り組むようになってきたのだと思われる。今後とも環境汚染被害者への支援に関する日中協力の充実が期待されるところである。

*主に「第22回日本環境会議・滋賀大会 環境再生と維持可能な社会−Sustainable Societyを目指して−」に掲載された王センター長の中文報告(要旨・本文)を参照。

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